〈第2話〉「クリティカルシンキング」のすすめ 20年8月

 大阪府の知事が、コロナウィルスとイソジンなどのうがい薬の関係について会見で述べたことが、様々な波紋を呼んでいます。その発言は、医学に素人の目から見ても、短絡的に受け取る人は“新型コロナ肺炎がうがい薬で治る“と誤解するだろうなと思う内容なのですが、発言にあおられた結果、今度はうがい薬が買い占められたりする騒ぎになっているようです。 
 これに限らないのですが、今回のコロナだけでも明らかなウソとは言わないまでも根拠の薄い言説がいくつも飛び交いました。中には、“お湯を飲めば予防できる“というお気楽な説もありました。ただ、これらの話に跳びつく人を決して揶揄するつもりはありません。人間だれしも、不安に駆られれば、“藁をもつかむ”心理状態になることは無理もないことだからです。
 
 さて、「クリティカルシンキング」、日本語に訳すと「批判的思考」という言葉があります。批判というと、どうしても“否定する“といった意味合いに受け取られがちですが、元々は、物事を“熟慮して正しく判断する”という意味であって、そこにはイチャモンをつけるといったニュアンスはありません。つまり、「クリティカルシンキング」とは、何かに直面した時に物事を鵜呑みにするのではなく、いったん立ち止まって、それが本当にそうなのか多方面から客観的に検討し、熟慮して論理的に判断することを言います。
 さまざまな場面を通じて、子どもたちにこの「クリティカルシンキング」を育てることの重要性は教育の世界でも以前から指摘されていて、心理教育の一環として計画的に取り組んでいる学校も一部にはあるようです。
 
 今回の大阪府知事の発言にしても、手洗いするときに単に水で洗うよりは石鹸を使ったり指先を消毒したりする方が良いように、うがいにしても、水でするよりもうがい薬でする方が殺菌効果はあるでしょうから、口の中の菌が減ることは自明のことです。感染症予防にうがい手洗いの重要性は既に周知のことですから、人にうつす可能性を低くするという意味では、その発言は当たり前のことを述べているにすぎません。
 だからと言って、うがい薬を使えばコロナが治るかのように誤解されかねない発言を思わせぶりな調子で不用意にすることは問題でしょうし、うがい薬を使いすぎることは、かえって健康に良くない影響を与えるだろうとも思います。つまり、今回のような発言に対しては、鵜呑みにするのではなく、熟慮して冷静に判断する「クリティカルシンキング」が必要なのです。

 私たち日本人が、総じて“お上”のお達しに対して従順で同調性が高いということは、よく言われることです。今回のコロナでも自粛要請にほとんどの日本人は素直に従いました。その反面、“熱しやすく冷めやすい”その国民性は、物事に対処するときに思考が極端に振れる「白黒思考」「0か100か思考」に陥りがちで、“自粛警察”と言われる過剰な反応が見られているのも事実です。ですが、“真理は極端にはなく、その間にある”と言う意味のことは、ギリシャ哲学でも、儒教でも、仏教でも、先人たちによって繰り返し述べられています。

 私たちが、心理学を学ぶ理由のひとつに、世の中の出来事に右往左往するのではなく、しっかりとした考えを持って正しく論理的に判断できる自分でありたいという願いがあるように思います。そのための方法として、常に「クリティカルシンキング」を心がけたいものです。

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